アイロニングは、スライサーソフトの機能のひとつで、造形物の表面をキレイに仕上げることができます。
本記事では、アイロニングについて詳しくご紹介していきます。
アイロニングとは?
アイロニングとは、服のシワを取るアイロンとよく似ており、「ノズルの熱を利用し、表面を滑らかにする効果」があります。表面をプリントした後、その上を再びノズルが通り、熱によって慣らしていきます。
その時、ただ熱を加えるだけでなく、少量の樹脂を加えることで、表面をキレイに埋めていきます。これでキレイになることが多いですが、効果が高い場合とそうでない場合がありますので、その辺りも本記事でご紹介できればと思います。
検証に使った3Dプリンター・スライサーソフト
今回使ったプリンターは、「Bambulab P1S」です。精度が高く、とても安定していています。マルチカラー・専用サポート材対応・ABSなどのフィラメントも使うことができます。
関連記事:【どんな機械?】Bambulab P1Sを徹底レビュー
またスライサーソフトは、BambuStudioを使っていきます。ソフトの基本的な使い方は、↓の記事も参考にしてください。
使用する材料は、eSUNのPLAフィラメントを使っていきます。
アイロニングの設定方法、プリントした結果
基本的な使い方
まずはBambuStudioの、左側「品質」タブ内にある「アイロン面」という項目があります。これの「全てのトップ面」「最上部のみ」「全てのソリッド積層」の中から選択します。
「全てのトップ面」というのは、モデル内に存在するそれぞれのトップ面(表面)を指します。たとえば階段状のモデルだと、「全ての段の表面部」が対象となります。つまりトップ面全てに、アイロニング処理を施すことができます。もっともよく使うパターンかと思います。
また、「最上部のみ」というパターンは、「最も高いトップ面のみ」にアイロニング処理をします。一番高い部分にしか適用されないため、他の表面部と見た目が変わってしまうこともあります。
続いて「全てのソリッド積層」のパターンでは、ソリッドフィル部が対象になります。ソリッドフィル部とは、上面と底面におよそ5層ずつ設定されている部分で、強度や形を保つために必要とされる部分です。
ただ、このソリッドフィル部にアイロニをする必要があるのかは不明です。
初期設定でプリントしてみる
「全てのトップ面」を選択してプリントしてみます。他の調整項目は変更せず、このままプリントします。
プリントしてみると、こんな感じになりました↓。表面が滑らかになり、とてもキレイになりました。
アイロニングをしていない場合と比較してみると、こんな感じです↓。アイロニングしていない方は、造形線がはっきり見えていますが、アイロニングしている方は、とても滑らかです。
また、光沢具合にも違いがあります。アイロンを無効にした方の光沢感は強いですが、有効にした方は光沢感が弱まっています。
パターンを変えてプリント
初期設定では「直線」になっていますが、「同心」というパターンも選べます。
同心を選ぶと、こんな感じで円状のルートでアイロン処理を行っていきます。
同心でプリントすると、こんな感じです↓。やや潰れている箇所がある気がします。
直線と同心を比べてみると、こんな感じです↓。直線でプリントした方がやや滑らかに見えました。
モデルのサイズや形状にもよりますが、特にこだわりがなければ直線を選んでおいて良さそうです。
移動速度を変えてプリント
この値を変更すると、アイロン中の速度を遅くしたり早くしたりすることができます。初期値は30mm/sになっていて、やや遅めに設定されています。
今回は試しに100mm/sに変更してテストプリントしてみます。プリントしてみた結果がこんな感じです↓。キレイに仕上がっていますが、30mm/sの時よりやや荒れている気がします。
30mmパーセックのものと比べて見ると、こんな感じです↓。比較すると少し違いますね。やはり遅い方が、滑らかに見えます。
また、アイロンを無効にしたものと、アイロンを有効にして100mm/sにしたものを比較すると、こんな感じです↓。
アイロンしない場合よりも、速度を上げてアイロンした方がキレイに見えましたので、ちょっとでも時間短縮したい場合には、速度を上げてもいいですね。
ライン間隔を変えてプリント
アイロンライン間隔の値を変更すると、「アイロン線同士の間隔」を広げたり、狭くしたりすることができます。
今回は試しに、デフォルト値0.15mmから、1mmに変更してプリントしてみます。すると、こんな感じで、線と線の間隔が広がりました。結構ハッキリ分かるものですね。
実際には1mmにすることはほとんどありません。デフォルトの値で問題はありませんが、径の違うノズルに交換した場合、や仕上がりが良くないことがありますので、微調整が必要です。
装着しているノズル径よりも、小さくする方がいいので、その範囲内で微調整しましょう。
アイロンインセットを変えてプリント
この項目では、「エッジの部分に、アイロンをしないエリア」を調整することができます。
試しに値を大きくすると、端の方はアイロンされないエリアが広くなります。もし隅々までアイロンをしてしまうと、表面の樹脂がノズルで押し出され、外側に溢れてしまうことがあります。
仕上がりが良くない場合は、この値を調整しましょう。
オーバーハングモデルをプリント
さっきまでは平面のモデルでしたが、今回はオーバーハングのモデルです。
プリントしてみると、こんな感じです↓。トップ面はアイロンされているのが分かりますが、オーバーハング部分はアイロンされていないようです。
これだと、ちょっと違和感がありますね。このような立体物の場合は、アイロンの効果は低いようです。
PETG・ASAフィラメントでプリント
ここまではPLAフィラメントで試しましたが、次はPETGで試してみたいと思います。
PETGでプリント
ちなみに、PETGはPLAのように失敗が少ない上に、PLAよりも耐熱性や靭性が高く、よく使われるフィラメントです。
あふぃ
では、アイロン初期設定でプリントしたのがこちらです↓。黒色の部分がマットな感じになっていて、カーボンっぽい仕上がりになりました。ちなみに、白色・黒色の部分ともにPETGフィラメントを使っています。
また、アイロンしていないものと比較すると、こんな感じです↓。これも光沢感や造形線の見え方に、大きな違いがありました。PETGフィラメントでも問題ないですね。
ASAでプリント
ASAは、ABSと性質が似ていて、高耐熱で耐候性に優れた樹脂です。
プリントした結果は、こんな感じになりました↓。これもアイロン初期設定のままプリントしてみましたが、先ほどと同様にカーボンぽくなっています。かなりいい感じです。
では、アイロンしない場合と比べてみます↓。これもしっかりと違いが見られました。効果はありそうですね。
アイロニングの注意点
① プリント時間が長い
通常のプリントとは別に、アイロンする時間が加わります。また、速度はあまり早くないため、モデルの大きさによっては、より多くの時間が必要になることがあります。
例えば、このような大きめのモデルでプリントした場合は、およそ2時間38分かかります。一方、アイロン処理を加えてプリントすると、およそ3時間6分必要になります。およそ28分くらい余分にプリント時間が伸びました。
少しでも時間を短縮したい場合は、先ほど試したように、アイロンの速度の値を上げるといいです。
② 熱クリープが起きやすい
熱クリープとは、ノズルの熱によって造形物が変形してしまう症状です。
熱変形温度が低めのPLAフィラメントは、症状が起きやすくなります。今回は発生しませんでしたが、もしその場合は、アイロン時の流量や移動速度を調整する必要があります。
③ 光沢具合が変化する
今回試してみた通り、どの場合でも表面の光沢感に変化がありました。そのため、キラキラした感じに仕上げたい場合は、アイロンは使わない方がいいかもしれません。
④ 立体形状に向いていない
面の広いモデルにはとても効果がありましたが、オーバーハング部分には効果が見られませんでした。例えば、コースターやオーナメント、表札といったものと相性が良さそうです。
まとめ
項目 | 内容 |
アイロニングとは? | 造形物を印字したその上からノズルでなぞる機能。ノズルの熱と少量突出される樹脂によって、表面の造形線を目立たせにくくしたり滑らかにする効果がある。 |
アイロニングの設定項目 | アイロンパターン、移動速度、ライン間隔、アイロンインセットがある。 |
PLA・PETG・ASAでプリントした結果 | どれもキレイにアイロニングができた。 |
アイロニングの注意点 | ① プリント時間が長くなる ② 熱クリープが起きる場合 ③ 表面の光沢具合が変わる ④ 面の広いモデルに効果が高い |