使い方を間違えると、プリントに失敗することがあります。
そこで本記事では、PLAフィラメントの「基本的な知識」から「失敗しないプリントのコツ」「おすすめのフィラメント」などをご紹介しています。
3Dプリンター初心者の方へ向けた記事となっていますが、振り返りたい方やフィラメントを探している方にも参考になると思います。
PLAとは?
① 何の略?
PLAとは、Poly Lactic Acidの略です。または「ポリ乳酸」とも呼ばれています。
植物(トウモロコシやじゃがいもなど)からデンプンや糖を抽出します。その糖から乳酸が作られているため「乳酸」という名前がついています。つまりPLAは「自然にあるもの」が原料となっています。
② バイオマスプラスチックのひとつ
PLAは、バイオマスプラスチックのひとつです。
バイオマスプラスチックとは「再生することができる資源・材料」という意味があります。またバイオマスプラスチックには「非生分解性プラスチック」と「生分解性プラスチック」の2種類に分けられます。
・ 非生分解性プラスチックってなに?
非生分解性プラスチックとは「土の中の微生物によって、分解されないプラスチック」のことです。ですが、焼却してもCO2の排出をおさえることができるので、環境にやさしいプラスチックと言えます。
3Dプリンターでは、ABS、PC、PPなどがこれに該当します。
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③ 生分解プラスチックのひとつ
PLAは、生分解プラスチックに分類されます。
生分解プラスチックは「自然に還る」という性質があります。一定の条件が整うと、土の中の微生物によって、水と二酸化炭素まで分解することができます。
3Dプリンターでは、PLAとPVA(ポリビニルアルコール)がこれに該当します。
④ 何に使われている?
PLAは、主にフィルムや食品包装に使われています。
ゴミ袋、包装用フィルム、容器、緩衝材、農業ハウスフィルムなどの身の回りのものに使われています。
PLAフィラメントの特徴
① 甘い匂いがする
プリント中は、少し甘い匂いがします。
原料にとうもろこしやじゃがいもを使っているため、熱がかかると匂いを発します。あまり気にはなりませんが、人によっては頭痛を起こすことがあります。換気の良いところで使いましょう。
関連記事: 【重要】3Dプリンターの理想的な置き場所・環境
② 衝撃に弱い
PLAは、衝撃に弱いです。
強度は高いのですが、しなやかさが無く、衝撃に弱いです。そのため造形品を落とすと割れることもあります。
③ バリエーションが豊富
バリエーションが多いフィラメントです。
・ ハーフトーン色
オーソドックスな白や黒はもちろん、青や赤などのカラーバリエーションも豊富です。またハーフトーンなどの中間色も流通しはじめています。
・ ラメ入り
フィラメントにラメを混ぜ合わせていて、キラキラした作品を作ることができます。お子さん用にペン立てや、ブックエンドなどを作ってあげると喜ばれますよ。
・ ちょっとずつ入り
どの色が良いか悩む場合は、ちょっとずつ入った4色フィラメントもおすすめです。
・ 木の質感
PLAに木の原料を組み合わせた「木質フィラメント」もあります。あたたかみのある木の質感や匂いを表現することができます。
動画で見る
動画でも色々なPLAフィラメントをご紹介しています↓
PLAフィラメントを使うメリット
① 失敗しにくい
最も失敗しにくいフィラメントです。
失敗が少ないため、初心者の人からベテランの人まで使えるフィラメントです。ちなみにABSやPCなどの必要温度が高いフィラメントは、プリントがむずかしくなります。
② 環境問題の救世主
PLAは、SDGsの一環として期待されています。
SDGsとは、2015年に国連サミットで決まった「持続可能な開発目標」のことです。もしPLAを燃やしてもCO2の排出量は少ないので、環境にやさしい材料といえます。
PLAフィラメントをチョイスするだけでも、サステナブルな生活を送ることができます。
③ 価格が安い
PLAフィラメントは、安価に購入することができます。
1kgあたり2,000円台で購入することができます。たとえば↓はブックエンドをプリントしたものですが、およそ20gあります。2,500円/1kgだとすると50円ほどで作れてしまいます。
PLAフィラメントを使うデメリット
① 熱に弱い
PLAは、熱に弱いです。
およそ60℃前後で、柔らかくなってしまいます。もしプリントした物を、コンロの近くやお湯、車の中で使う場合は注意が必要です。
② 加工性が低い
PLAは、加工に向いていません。
硬い性質があるので、研磨がしにくい、穴をあけると割れやすいなどのデメリットがあります。ABSやPCなどがおすすめです。
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PLAを9つの視点で分析する
メーカーによる違いがありますので、それを踏まえて参考にして頂ければと思います。
1.全体的な扱いやすさ ◎
・油断は禁物
扱いやすいと言っても、失敗することはあります。たとえばモデルの形状や使用環境、機械のキャリブレーション、レベリング調整など、多くのことが影響しますので油断は禁物です。
・フィラメントをとっかえひっかえしない
同じノズルで、ほかの樹脂をとっかえひっかえ使っていると詰まりやすくなります。たとえばPLAのヒーター温度は205℃前後に対し、ABSやPCなどは250℃~260℃です。とくに温度帯の違うフィラメントを同じノズルで兼用することは控えましょう。
関連記事: ノズル詰まり対処方法・回避方法
2.プラットフォームの定着性 ◎
ですが、正しい調整は必要です。以下の「2点」を参考にしてください。
① キャリブレーションを行う
シックネスゲージなどを使って、高さ調整を行います。
これに加えてオートレベリング(自動平面調整)機能があれば、実行します。
関連記事: テーブルから剥がれないようにする方法!
② 糊(のり)を使う
必要に応じて、糊を使います。
テーブルの材質によって、使うか使わないかが分かれます。特殊加工されたシートであれば、使わなくても問題ないことが多いです。ただしガラスなどは定着が弱いので、糊を使うことがあります。
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3.他の樹脂との相性 ◎
① 水溶性サポート材をつかえる
水で溶かすことができるサポート材を使えます。
PVA(ポリビニルアルコール)というフィラメントを使うと、水で溶かすことができます。サポートを手で取り除くことができない形状に有効です。
ところが、水溶性サポートには以下のデメリットがあります。
・ デュアルヘッドのプリンターが必要。
・ PVAの価格が高い。
・ 調整難易度が高い。
これらの理由から、あまり普及されていないのが現状です。
関連記事: 水溶性サポート材(PVA)で造形!
② 剥がしやすいサポート材を使える
手でカンタンに剥がせるサポート材を使うことができます。
Polymakerさんから「Polysupport」というサポート用フィラメントが販売されています。これを使うとラクに剥がすことができます。
ですが、以下の点にも注意しておく必要があります。
・ デュアルヘッドのプリンターが必要。
・ 調整難易度が高い。
関連記事: ポリサポート(Polysupport)で造形!
4.加工のしやすさ ×
・ 表面がかたい
試しに耐水ペーパーを使って、研磨してみました。すると「ゴリゴリ」した感触でしたが、なんとか削れました。ところが表面が白っぽくなり、仕上がりが良くありません。
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・ 割れやすい
PLAは強度は高いですが、ABSのような粘り気は少ない樹脂です。そのため穴あけや切削をする場合は、割れにくくする工夫が必要です。
5.プリント中の匂い ◎
・ 問題になりにくい
PLAは、カバーに囲われていなくてもプリントすることができます。そのため匂いが周囲にただよってきそうですよね。
ところが私の経験上、オフィス・ユーザー先・家庭でも、今まで問題になったことがありません。しかしながら少し甘い匂いがするため、置き場所の配慮は必要かと思います。
6.湿気に対する強さ 〇
PLAの吸水率は、およそ0.3%~0.5%です。PA(ナイロン)が1.5%ほどなので、それに比べれば強いですが、PC(0.15%~0.17)と比べると弱いと言えます。そのため、防湿対策をするようにしましょう。
防湿するポイントは「パッケージを開封したら、ドライヤーに入れて運用すること」です。そうすることでフィラメントの寿命を延ばすことができます。
7.価格 ◎
家庭向けであれば2,000円~4,000円、業務向けであれば4000円~6000円程です。割安なので、失敗してもダメージが少ないのはうれしいですね。
低価格帯のPLAフィラメントは多数のメーカーから販売されています。
8.強度 ○
ですが耐衝撃性がABSよりも低くいため、落とすと割れてしまったり、欠けてしまうということがおきます。長期間経つと変色や、変形などが発生することもあります。
9.耐熱温度 ×
物質がやわらかくなる温度を「ガラス転移点」と言いますが、PLAはこれが「55℃~60℃」程度しかありません。
そのため、夏場の車中や、火の近くやお湯を使う場面では注意が必要です。プリントしたものをこのような環境で使う場合は、ABSやPCで作ることを検討しましょう。
ほかの樹脂との比較表
私の経験に基づくものですので、ご了承ください。
項目 | ABS | PLA | PP | PC | PETG | TPU | PA | 木質 | |
1 | 全体的な造形のし易さ | 〇 | ◎ | △ | 〇 | ◎ | △ | △ | 〇 |
2 | テーブルの定着性 | △ | ◎ | △ | ◎ | ◎ | ◎ | △ | 〇 |
3 | 他の樹脂との相性 | △ | ◎ | △ | 〇 | × | 〇 | 〇 | × |
4 | 後加工のし易さ | ◎ | △ | △ | 〇 | 〇 | △ | △ | 〇 |
5 | プリント中の匂い | 〇 | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ | 〇 | △ |
6 | 湿気に対する強さ | 〇 | ○ | 〇 | 〇 | △ | △ | × | △ |
7 | 価格 | ◎ | ◎ | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | △ | 〇 |
8 | 強度 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ | △ |
9 | 耐熱温度 | 〇 | × | ◎ | ◎ | 〇 | 〇 | ◎ | – |
「扱いやすさ」「テーブルの定着性」「ほかの樹脂との相性」「プリント中の匂い」「価格」に、とても優れたフィラメントです。
進化するPLAフィラメント
① 衝撃に強いPLAフィラメント
弱点だった「耐衝撃性」が強化されたPLAフィラメントが、Polymakerさんから販売されています。通常のPLAに比べて最大9倍の耐衝撃性を持っています。
② PLA + カーボンファイバー
カーボンファイバーは、ゴルフクラブやラケットのように「強靭で」「軽くて」「反発力が必要」な製品に使われています。似たようなシーンを求める場合に利用できます。
まとめ
一昔前のPLAは、単調なバリエーションしかありませんでした。ですがここ最近は、とても早い速度で進化しています。
ものづくり業界では、ますます期待されるプラスチック材料のひとつです。今後の動向にも注目し、参考になる情報があれば発信していきたいと思います。