最近では、低価格の3Dプリンターでも、スーパーエンプラを使えるようになってきました。
そこで今回は、PPS-CFというフィラメントを使ってみましたので、実際のところはどうなのかをご紹介します。
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PPS-CFってなに?
PPS-CFとは、「ポリフェニレンサルファイド」という樹脂と、「カーボンファイバー」が組み合わさったフィラメントです。PPSは、スーパーエンジニアプラスチックに分類される樹脂です。
そもそもプラスチックは、ABSやPPなどが分類される「汎用プラスチック」、ナイロンやポリカーボネートが分類される「エンジニアプラスチック」、そしてさらに耐熱性・強度が高いものを「スーパーエンジニアプラスチック」に区分けされています。
PPSはスーパーエンプラに分類されます。ちなみに、スーパーエンプラは他にもPEEKやPEIがあります。これらを出力できる商用向け3Dプリンターも販売されています。
PPS-CFの特徴【4選】
1.熱性能が高い
まず1つ目は、何と言っても耐熱性が高いという点です。
Bambulabのフィラメント情報では、熱変形温度が、PLAで57℃、ABSが87℃、PA6-CFが186℃、PPA-CFが227℃に対し、今回使うPPS-CFは264℃となっています。
※出典:Bambulab公式サイト
熱変形温度とは「一定の力を加え続けて、どれくらいの温度で変形するかという目安」です。最も多く使われているPLAフィラメントとの差は207℃もありますので、圧倒的な熱性能の差がありますね。
2.剛性が高い
2つ目の特徴は、剛性が高いという点です。
剛性とは、「曲げたりねじったり衝撃を受けたりした時に、寸法変化が起きやすいかどうかを見る目安」です。剛性が高いと、ぶつかった時の衝撃による変形が少なかったり、加工時の寸法への影響が少ないといった特徴があります。
これもPETCFよりも、高い数値になっています。
※出典:Bambulab公式サイト
3.耐薬品性が高い
3つ目の特徴は、耐薬品性が高いという点です。
耐薬品性とは「薬品に対する抵抗性のことで、良い数値が高いほど薬品の影響を受けにくい」ということになります。個人では薬品を使うことは少ないかと思いますが、製造開発企業では容器や開発の検証などで使われることがあります。
4.吸水率が低い
特徴の4つ目は、吸水しにくい点です。
基本的にどの樹脂でも、吸水してしまう特性があります。ところが、PPS-CFは吸水率がとても低いです。例えば、PA6-CFの飽和吸水率は2.35%ですが、PPS-CFは0.05%です。湿気を吸収しにくくなるので、劣化を遅らせることができます。
とはいえ、フィラメントは乾燥している状態が良いので、しっかりと保管する必要があります。PPS-CFでプリントする前には、100℃から140℃の送風乾燥機を使って、8時間から12時間乾燥させることが推奨されています。これに関しては、コンベクションオーブンなどを使うと良いです。
今回使用した3Dプリンター・フィラメントについて
使用した3Dプリンター
今回はQIDI Plus 4というチャンバー機能付きの3Dプリンターを使います。
この機種はノズルが最大370℃、ベッド温度が最大120℃、チャンバー温度が最大65℃まで設定できるので、PPS-CFをプリントすることができます。
また、ABSやASAなどのプリントにも向いているので、多くの種類のフィラメントを使う方にもおすすめです。それでいて、価格が15万弱で購入できるので、とてもお買い得な3Dプリンターだと思います。
関連記事:QIDI Plus 4でヒートチャンバーの効果を検証!
使用したフィラメント
フィラメントは、BambulabのPPS-CFを使います。
このフィラメントは750g入っていて、21,999円します。とんでもなく高いですね。個人ではなかなか手が出しにくい金額です。
ちなみに、QIDI TechのPPS-CFは750gの容量で、19,000円で購入することができます。ちょっとだけ安いですね。パッケージに記載されている推奨温度は、ノズル温度310℃から340℃となっています。
もちろん、この温度まで昇温できない3Dプリンターでは取り扱うことは推奨されていませんので、機種は限られます。
Bambulab製では、法人向け3DプリンターのX1Eで扱うことができます。X1Eはノズルを最大320℃まで昇温することができ、庫内の温度制御もすることができます。
いろいろプリントしてみた結果
今回プリントした際の条件は、「ノズル320℃」、「ビルドプレートの温度は110℃」、「チャンバー温度は60℃」で設定しています。スライサーソフトはQIDI Studioを使いました。PPS-CFのテンプレートが用意されているので、あまり迷うことはありません。
3DBenchy
まず最初は、3DBenchyをプリントしました。カーボンが入っているので、独特な質感になっています。層間の跡はほとんど見えないくらいに仕上がっています。光沢感が強いので、ちょっとメタリックな感じもしました。
ちなみに参考程度に、Bambu PLA-CFでプリントしたものがこちらです↓。光沢感が少なく、マットな感じがします。
関連記事:Bambu Labカーボンフィラメントを使うと、想像以上にキレイになる
比較するとこんな感じです。同じカーボンでも、かなり違いがありますね。
PLA-CFフィラメントも、とても仕上がりがキレイなので、試してみてください。
ALL IN ONE MODEL
続いては、ALL IN ONE MODELのモデルです。ブリッジ部の垂れは少なく、糸引きもあまりありませんね。
オーバーハング部分もキレイに積み上げられていて、垂れはあまりありません。
試験片
続いては、試験片です。PPS-CFは剛性・強度が高いので、どんな感触なのか気になります。曲げてみると、コシが強い感じがします。
では、試験片を曲げてみると、割と早い段階で折れました。感触はPLAに近く、さらに硬い感じがしました。PETGやABSのような、粘りはあまりありませんね。
ちなみに参考までに、PETGフィラメントで試すと、もっと曲げることができます。PETGは粘りが高いので、このようになります。
PPS-CFは剛性・強度は高いのですが、靭性は低めなので、その辺りは注意が必要そうですね。ベンチマークモデルを床に落としてしまったのですが、するとこんな感じで折れてしまいました。PLAと同様、肉薄形状だと折れやすいみたいです。
面積の広い造形
続いては、このような面積のある造形物をプリントしてみました。
ABSやPCは、テーブルから浮いてしまうことが多いのですが、ガッチリくっついてくれました↓。ただ、層間に隙が入っているところがあります。もしかすると、プリント前の乾燥が不十分だったのかもしれません。
今回は70℃くらいのフィラメントドライヤーで乾燥しただけですが、理想は140℃ぐらいで乾燥した方が良いです。コンベクションオーブンなどを使うと良いと思います。
かなりテーブルに密着していたので、PEIプレートから剥がすのが大変でした。ただ、くっついてくれる分には問題ないです。しっかり定着してくれると、仕上がりに関するトラブルは減りますので、その点はとてもいい点だと思いました。
QIDI Plus 4 トラブルで苦戦した話
トラブルで苦戦していた話を解説していきます。
今回GD Plus4を使いましたが、実は苦戦しましたので、その辺を共有できればと思います。
途中でプリントが止まってしまう
まず1つ目ですが、途中でプリントが止まってしまうということが起きました。
こんな感じ↓で何も動かない状態になります。最初はチャンバーやプレート、ノズルが超高温になるため、熱による影響かなと思っていました。
最終的にはファームウェアのバージョンアップで治りました。もし症状が起きた場合は、対処してみてください。
ノズルとプレートが接触する
2つ目は、ノズルとビルドプレートが接触してしまうという症状です。
具体的に言うと、ノズルとプレートが接触してしまい、跡が残るくらい擦れてしまいました。初期化・プラットフォームのキャリブレーション・レベリング調整・FWバージョンアップなどの調整を実施しましたが、結果的に改善しませんでした。
次に、QIDI Slicerを最新バージョンにして試しましたが、特に変化はありませんでした。
続いて、QIDI Slicerには、Zオフセットという調整項目があるので、これを0.3mmほどに調整しましたが、これもまた変化はありませんでした。
次に、QIDI Studioという別のスライサーソフトに変えて試します。ちなみに、QIDI StudioはBambu Studioに基づいて開発されているので、似たインターフェースになっています。QIDI Studioでプリントしてみましたが、改善はしませんでした。
最終的には、タッチパネルのZオフセットで高さを調整しました。これでプリント自体に問題はありませんが、なぜ原点が狂っているのかが、不明です。
まとめ
今回、PPS-CFを使ってみた感想は以下の通りです。
優れた特性
PPS-CFには、耐熱性・強度・耐吸水性・耐薬品性など、一般的なプラスチックよりも優れた特性を持っているので、とても大きなメリットがあります。
コストが高い
一般的なフィラメントよりもコストが高いため、主に商用向けになりそうです。ただ、今回のように低価格プリンターでも出力できるようになりつつあるので、少しずつ身近なフィラメントになるかもしれません。
定着力が高い
定着力がとても高く、面積の広いモデルでも浮いたり剥がれたりせず、意外と安定していました。ただ、もっと大きいモデルやインフィル率が高くなると、糊などの対応が必要になるかもしれません。
靭性は低め
靭性はあまり高くないため、肉薄なモデル形状だと割れる可能性があります。肉厚な形状をプリントするといいでしょう。
トラブル情報が少ない
PLAやABSほど広く知られているフィラメントではないので、トラブル情報は多くありません。ただ、GD製のスライサーソフトにはテンプレートが用意されていたので、使う分には大きな問題はありませんでした。