TPUとは、熱可塑性ポリウレタンの略で、ゴムのような弾力、しなやかさがある樹脂です。
それを高速でプリントすることができる「TPU95A-HF」というフィラメントを使ってみました。
この記事でわかること
・ 設定でどうかわるのか。
・ どれくらい速いのか。
・ どんな感じでプリントできるのか。
Bambulab TPU95A-HFについて
公式サイトでは、従来のTPUよりも3倍の速度でプリントできるようです。
一般的なTPUの最大体積速度は、3〜4㎣/sですが、このフィラメントは12㎣/sでプリントすることができます。
この最大体積速度(MVS)は、フィラメントによって異なります。値を増やせば速く動作しますが、樹脂の排出が追いつかなくなることがありますので、注意が必要です。
今回カラーは「黒色」を使っていきます。他にも白、グレー、赤、黄色、青などがあるので、カラーバリエーションは多めですね。
また、Bambulabでは、マルチカラープリントができるAMS Liteというオプション品があります。
TPU95A-HFでは、これが非対応となっています。
また後でも出てきますが、湿気による影響を受けやすいため、乾燥ドライヤーなどの防湿対策が必要です。
値段は、1kg税込み8,481円とややお高めです。なかなか手が出にくい値段かもしれないですね。ただ、数を多く作る、大きいものをよく作る方にはメリットがありそうです。
ノズル温度の違いで起きる変化
まず最初は、Orca Slicerの温度タワーを使って確認していきます。
関連記事:Orca Slicerを使ったキャリブレーション手順・使い方
温度タワーは、階層ごとにノズル温度を変えてプリントできるので、どの温度帯がイイ感じになるかを試せます。
結果はこんな感じ↓。下の層が250℃の高温エリアで、上の層が220℃の低温エリアです。
どの階層もブリッジ部がすごく垂れています。ただ、低温エリアの方がまだマシですね。高温になるほど柔らかくなるので、その影響が出ています。
また、高温部は「ボソボソ」した仕上がりになっています。これはノズルから出てくる時に、パチパチっと弾けてしまい水分が蒸発して、できたものです。
使う前には、乾燥ドライヤーを8時間ほどあててたんですけどねー。
ただ、乾燥ドライヤーを当てる前のテストでは、さらにヒドイ仕上がりでした↓。糸引きもひどいです。
。
ドライヤー前と後を比べると、その違いがよくわかります。ただ、低温エリアはあまり影響なさそうなので、低温でプリントした方が良さそう。
乾燥ドライヤーは、温度に加えて、送風できるタイプのものが、効率よく湿気を排出できるので、オススメです。
また、シリカゲルを使ってもいいのですが、強力乾燥剤の方が効果が高いです。
関連記事:【強力乾燥剤 VS シリカゲル】OZO-Zの湿度の下がり方がすごかった
リトラクションテスト
リトラクションは、フィラメントを引き戻す動作のことで、糸引きを防止する効果があると言われています。
このテストでは、段階的に「リトラクションの距離」を変えてプリントし、その効果があるのかを見ていきます。
Orca Slicerの、リトラクションテストで、引き戻し量「0mm」から始め、最後は「2mm」まで行う設定にします。
プリントした結果がこちら↓。下の層が引き戻し量0mmで、一番上が、2mmの引き戻し量になります。
見て分かるように、糸引き状況にあまり違いはありませんでした。なので、リトラクション調整よりは、防止や除湿対策をしっかりする方が重要かもしれません。
どれくらいプリント時間を短縮できる?
このフィラメントは高速用なので、公式で推奨されている通り、最大体積速度を12㎣/sで試します。
高速PLAフィラメントなんかは20㎣/sだったりします。それよりは遅いですが、一般的なTPUは3.5㎣/sくらいなので、格段に早い値です。
では結果ですが、3DBenchyは、「55分」でプリントすることができました。
一方、一般的なTPUだと1時間14分かかりましたので、およそ19分早くなります。
もう少し大きいモデルで確認します。
TPU95A-HFでは3時間39分に対し、通常のTPUでは5時間7分でした。およそ1時間28分早くなります。
これだけ差があると、もちろん早い方にもメリットがありますね。
さらに0.6mmノズルに付け替えて、プリントしてみます。
その結果、43分でプリントできました。0.4mmノズルと比べて、さらに12分の短縮をすることができました。これはいいですね。
実は、TPUは0.6mmノズルとの相性が良いです。
ノズル径が太いので、樹脂の排出がとてもスムーズに行われ、それにより流動性が良くなるので、ノズルトラブルを減らすこともできます。
0.6mmノズルは、結構おすすめなので、一度チャレンジしてみてください。
プリントしてみた結果
ゴム質フィラメントはノズル詰まりしやすいですが、さらに高速フィラメントだとどうなるか少し心配でした。しかし、全く問題なく、一度も詰まることなく使えています。
これは↓高速設定でプリントしましたが、キレイにプリントできています。
続いては、これまでの「遅い設定」でプリントしてみました。結果はこんな感じ。めちゃめちゃキレイになりました。糸引きも少なく、積層ムラもほとんどありまえせん。
品質を求めるなら低速で、時間短縮を求めるなら高速で、使い分けるといいかもしれません。
念のため、違うモデルでも試してみます。
これは、そこまで大きな差はないですね。モデルによっても差が有るものと無いものがありそうです。
次は高速用ではない、一般的なTPU95Aフィラメントを使って高速プリントしてみました。
結果はこんな感じ↓。オーバーハングやシーム部が荒れています。
あわよくば、安いTPUでもいけるのかなと思ったんですが、難しかったです。
ちなみに、低速プリントしたものがこちら。当然ですが、フィラメントの推奨設定であれば、全く問題ない感じでした。
続いて、0.6mmノズルでプリントした結果を見ていきます。
Bambulab A1は、0.4mmノズルの他に、0.6mmや0.8mm系のノズルが使えますが、TPUに関しては0.2mmノズルが非推奨なので注意です。
A1やA1miniは、レンチ不要でノズル交換できますので、カンタンです。
では、0.6mmノズルでプリントした結果ですが、こんな感じです↓。
こちらもいい感じですね。層は厚めなので多少目立ちますが、綺麗に積み上がっています。
0.18mmピッチのテンプレートも用意されているので、より滑らかにすることも可能です。
AMS Liteでも使える?
Bambulab A1やA1miniではAMS Liteを使うと、別のフィラメントを組み合わせてプリントすることができます。
そのため、マルチカラープリントができたり、PLA+PETGなどの混合プリントなんかもすることができます。
また、水溶性サポート剤を使うと、水で溶かすこともできます。
関連記事:水溶性サポート材を使ったら、かなりキレイに仕上がった
そこで、このAMS LiteでTPU95A-HFをプリントしてみたんですが、結果的に全然うまくいきませんでした。
AMSにセットしたフィラメントを送ろうとするのですが、うまくエクストルーダーに入り込んでくれません。
一旦引き戻しが行われて、リトライ動作をします。永遠とこれが繰り返されてしまいます。
自動供給するAMSの機構と、エクストルーダーの送り出し機構がうまく噛み合っていない感じです。これができなかったのは少し残念でした。
ちなみに、AMSを使わない「外部スプール」は問題なくプリントできます。
あと、試してはいないですが、TPU64Dとか、もっとコシの強いゴム質フィラメントだったらいけるかもしれませんね。