FDM方式の3Dプリンターは、積層痕のせいで、見栄えが悪くなることがあります。
今回は、積層痕を解決する方法なども解説していきます。
この記事で分かること
・ 積層痕は、なぜできてしまうの?
・ 積層痕を、キレイに見せるコツ
私自身、3Dプリンターの保守やサポートのお仕事をしておりますので、その経験が参考になれば幸いです。
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積層痕とは?
造形物を横から見ると、地層のように積みあがっている様子がうかがえます。この層を「積層痕」と呼びます
特にFDMと呼ばれるプリント方式は、積層痕が目立ちやすいです。たとえば下の写真は、異なる方式でプリントしたものですが、滑らかさに違いがあることが分かります。
ちなみに光造形は、光にあてることで硬化する「液体」を使いますので、層が滑らかになります。また粉末積層と呼ばれる方式は「粉」を焼結してプリントしますので、見え方がまた異なります。
3Dプリンター方式 | 積層痕の仕上がり | |
① | FDM方式 | 荒い |
② | 光造形方式 | 滑らか |
③ | 粉末積層方式 | 比較的滑らか |
3Dプリンターに精通している方であれば、作品を見るだけで「どの方式で作ったか」や「どの置き向きで作ったか」「どれくらいの調整値で作ったか」などが分かるようになってきます。
積層痕が生まれる仕組み
まさに地層のように、地面から順番に線を積み上げていきますので「層のつぎ目」が際立ちます。
プリンターによって違う!積層の細かさについて
3Dプリンターは、どの方式でも必ず積層痕が存在します。その中でも目立たない方式のプリンターもあります。
例えば光造形機は、「層の厚みを薄くすることができる」3Dプリンターです。材料はレジンという光で固まる液体を使います。液体ということもあり、一層あたりの厚みを薄くすることができます。
それにより、層があることを感じさせないくらい滑らかな積層になります。細かいディテールを表現したい場合は光造形機がおすすめとなります。
また、粉末造形液の場合は、樹脂にレーザーを照射することで固めていきます。光造形機よりも層は目立つものの、かなり滑らかな層となります。ただ、価格が高く、業務向けのみで販売されています。
そして、熱溶解積層(FDM)方式は痕が目立ちやすい方式です。そこで、この後では解決方法をご紹介します。
積層痕を滑らかに見せる7つのコツ
① 積層ピッチ(レイヤーの高さ)の値を下げる
3Dプリントをする際は、「1層あたりの厚みを薄くする」と滑らかな積層となります。
たとえば下の写真は、0.1mm~0.4mmの積層ピッチで、プリントしたものです。比較をするとよく分かりますが、0.1mmは積層痕があまり目立たないことが分かります。
また、これはピッチ0.4mmでプリントしたものですが、層がはっきりと確認できます。キレイにプリントできていますが、積層が目立ちますよね。
これは、テッペンから取ったものです。円状のラインが目立ちます。
そして今回は、0.04mmという超極薄の積層ピッチでプリントしてみます。
ただ、0.04mmピッチだと、0.4mm系のノズルではバランスが悪いので、0.2mm系のノズルを使います。
0.2mmノズルは、多くの3Dプリンターで、オプションとして用意されているので、手が出しやすいです。
では、プリントしてみた結果がこちらです。どうでしょうか? 積層痕は、ほとんど見えなくなりました。相当滑らかなので、めちゃくちゃキレイに見えます。
上から見るとこんな感じです。円状の跡がほとんど見えなくなりました。0.2mmノズルは造形線が細いので、その効果もあります。
これは、めちゃくちゃキレイになったのでびっくりしました。
↓こちらは、0.4mm系のノズルで、0.08mmピッチでプリントしたものです。これでも全く問題ないですね。
0.04mmと比べてみると、0.08mmの方はうっすら円形状が見える感じです。
ただ、このやり方の問題点は、「長いプリント時間が必要になる」点です。
このモデルを0.2mmノズル、0.04mmピッチでプリントすると、3時間51分かかりました。
一般的な設定だと41分でできてしまうので、それと比べるとちょっと長すぎますね。
そこで、「可変積層ピッチ」という機能を使うと、プリント時間を短くできます。この機能については↓の記事をご覧ください。
関連記事:Bambu Studioの基本操作・使い方・機能・ダウンロード
可変積層ピッチを使った場合、およそ2時間27分となりました。結果的に、1時間以上のプリント時間を短くすることができました。
では、「すべての層を0.04mmでプリントしたもの」と、「可変積層ピッチでプリントしたもの」を見比べてみます。
ほとんど違いがないように見えました。可変レイヤーの方は、どの層が厚めなのかも分からないほどです。
続いてトップ面です。こちらもほとんど違いはありませんが、やや左の方が滑らかです。
こんな感じで、可変レイヤーを利用すると「仕上がりを良くして、プリント時間を短くすることができる」のでオススメです。
② 目立たない色を使う
今までたくさんの作品を見てきましたが、使うフィラメントの色によって、見え方はかなり違います。
以下の写真は、すべて0.4mmの積層ピッチでプリントしたものです。みなさんはどの色が一番キレイに見えますか?
多くの方は、「グレー」や「青」の積層痕が目立ち、「白」や「黄」はあまり目立たないように見えるのではないかと思います。
これは↓、青と黄色の比較ですが、青色の方が積層ラインが目立っているように見えませんか?
また、上から見るとこんな感じです↓。こちらも同様に、黄色の方が目立っていません。目立たせたくない場合は、このような「明るい色」を使うといいです。
もし、誰かに作品を見せる時は、色を選定すると、評価が良くなるかもしれませんね。
今回、上記で使ったPLAフィラメントは「Bambulab PLA ベーシック」です↓。
③ 目立たない樹脂を使う
近年の3Dプリンターは、さまざまな樹脂を使えるようになってきました。フィラメントを変えるだけで、見え方が全く異なります。
カーボンフィラメント
たとえば以下の写真は、異なる樹脂で造形したものですが、カーボンの方は積層痕がボケていることが分かります。
またこちらのモデル↓でも、積層ラインがあまり目立っていません。PLAと比べてみても、見え方に違いがありますね。
横からよりも、トップ面から見た方が、違いがよくわかります↓。
ちなみにカーボンフィラメントは、軽量なわりに強度が高いという特徴があります。そのためラケットやゴルフクラブなどのスポーツ用品に多く使われていますね。
ただ、カーボンフィラメントを使う場合は、「ノズルの材質」に注意してください。
一般的な「真鍮製」だと、すぐに削れてしまいます。そのため、焼き入れステンレスなどの硬化ノズルを使うようにしましょう。
木質フィラメント
また下の写真は、木質のフィラメントを使ってプリントしたものです。PLAやABSのようなプラスチック感は全くなくなりますので、子供用のおもちゃなんかには良さそうですね。
こちら↓も、PLA+木質フィラメントでプリントしたものです。PLAよりは、若干ですがレイヤーが見えにくくなっています。
木質フィラメントにも色の種類があります。私は4色が少量ずつセットになった商品↓を購入して、仕上がりの違いを比較していました。
シルクフィラメント
続いては、シルクフィラメントです。シルクフィラメントは、光沢が強いのが特徴です。特に見栄えを気にしたい場合に効果的です。
ベースはPLAなので、プリントに失敗することもあまりありません。
積層を見てみると、光沢の影響でラインが目立ちにくくなっています↓。
普通のPLAと比べてみると、光沢量の違いが大きいですね↓。
より目立ちにくくしたい場合は、明るめの色を選ぶのがおすすめです。
大理石フィラメント
続いて、代理石フィラメントです。あまり馴染みのないフィラメントかもしれませんが、ベースはPLAです。
横から見ると、こんな感じです↓。黒いツブツブが混ぜ込まれていて、マーブル調の模様になっています。
通常のPLAと比較すると、かなり滑らかに見えます。
こちらはトップ面から見たところです↓。全く目立っていません。結果的に、この代理石フィラメントが、今回の中で一番良かったです。
見た目重視という方は、ぜひこの大理石フィラメントを使ってみてほしいです。
④ ファジースキン(Fuzzy Skin)を利用する
ファジースキン(Fuzzy Skin)とは、「外壁を波状の線でプリントすることで、テクスチャー模様に仕上げる」機能です。
↓の画像をよく見てもらうと、表面が波打っているのが分かります。
木質フィラメントでプリントすると、↓のような「ぬいぐるみ」っぽい仕上がりになりました。
ファジースキンの詳しい操作方法については、↓の記事をご覧ください。
関連記事:Bambu Studioの基本操作・使い方・機能・設定を徹底解説!
⑤ 自動キャリブレーション・自動レベリング機能を使う
最近では減ってきましたが、機械によっては、シックネスゲージや紙を使って「手動で調整するプリンター」があります。手動だと手間がかかるだけでなく、精度にばらつきが起きやすいというデメリットがあります。
また、テーブルを平面にする作業は、人の感覚で調整ますので、誤差が起きやすくなります。するとプリントの精度が落ち、積層痕が目立ちやすくなる場合もあります。
自動で調整できるプリンターだと、ある程度安定したプリントをすることができます。
このベンチマーク↓は、「自動キャリブレーション」と「手動キャリブレーション」それぞれでプリントした造形物です。当然、他の要素も絡みますので一口に比較にはなりませんが、違いはあるかなと感じます。
ちなみに自動キャリブレーションを搭載している3Dプリンターには、「Bambulab A1」や「Bambulab A1 mini」などがオススメです。
⑥ ヤスリを使う
プラスチックは、表面を研磨することができます。たとえば以下の写真は、ABSの作品にヤスリをかけたものですが、積層痕が消えており、とても滑らかになっています。
やすりには、空研ぎペーパーか耐水ペーパーのどちらかを使う方法がありますが、耐水ペーパーの方が研磨しやすいです。やすりについて試した記事がありますので、↓を参考にして下さい。
3Dプリントしたあとの仕上げ作業で、このような疑問をもったことはないでしょうか? ・ ヤスリがけ(研磨)は、どの樹脂にも有効なの?・ どれくらいの仕上がりになるの?・ 手ごたえはどんな感じ? ABSを含め[…]
色々なフィラメントを使って、やすりがけを試したみました↓
⑦ リューター(ルーター)を使う
リューターとは、モーターの自動回転を利用して研磨するツールのことです。手で研磨するのは、とても大変なのでこのようなものを使うと便利です。
以下の写真は、加工前と後の違いです。
USBで充電するタイプのミニルーターは、格安で購入することができるのでおすすめです。
実際のミニルーターをレビューしてみましたので、参考にして下さい↓
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⑧ 表面仕上げ加工機を使う
Polysherという加工機を使うと、表面をツヤツヤに仕上げることができます。仕組みは、BOXの中に造形品を置き、イソプロピルアルコール噴霧させることで表面を仕上げていきます。
また、PolySmoothという専用のフィラメントを使う必要があります。
まとめ
項目 | 説明 | |
① | 積層痕とは? | 造形を行うプロセスで発生する層の痕跡(こんせき) |
② | 積層痕が生まれる仕組み | 線を積み上げているので、層間に痕が発生する |
③ | 積層痕を滑らかに見せるコツ | ①積層ピッチを薄くする ②目立たない「色」を使う ③目立たない「樹脂」を使う ④ヤスリをかける ⑤リューターを使う ⑥PolySmoothを使う |
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