ABSフィラメントについて、こんな疑問はないでしょうか?
・ メリット、デメリットを知りたい。
本記事では、ABSフィラメントの基礎から、プリントに失敗しないための情報などをまとめていますので、参考になれば幸いです。
ABSとは
① 何の略?
ABSとは「A(アクリルニトリル)B(ブタジエン)S(スチレン)」の3つが合わさった樹脂です。
A(アクリルニトリル)
匂いの強い液体で、強度・耐熱性に優れています。
B(ブタジエン)
燃えやすい気体で、耐衝撃性に優れています。
S(スチレン)
発砲スチロールにも使われており、加工性・光沢性に優れています。
これらが合体すると、とても頑丈で、曲げにも強く、見た目が良い、ABSという合成樹脂になります。
② 熱可塑性樹脂のひとつ
ABSは、熱可塑性樹脂(ねつかそせいじゅし)に分類されます。
熱可塑性樹脂とは、熱を加えると柔らかくなる樹脂のことです。たとえばチョコレートや飴玉と同じで、熱を加えると柔らかくなったり、溶けたりする性質があります。
このようにABSに限らずフィラメントを使うFDM3Dプリンターの材料は、熱可塑性樹脂となります。ちなみに熱で固まる樹脂を「熱硬化性樹脂」と言います。
③ 何に使われている?
多くの製品に使われています。
たとえば、電化製品全般(テレビ・洗濯機・エアコン・掃除機・リモコン・パソコン)や台所用品(ポット、ミキサー)、自動車部品(カーオーディオ、カーナビ、シートの骨格部分、外装部分)などがあります。
このように身の回りに使われており、日常からは切っても切り離せない樹脂です。
ABSフィラメントの特徴
① しなやかさがある
ABSフィラメントはしなやかです。
たとえばPLAフィラメントを曲げてみると、パキッっと折れてしまいます。ところがABSはしなやかさがあるため、曲げることができます。これは粘り気が強く、衝撃を吸収する特性があるためです。
② カラーバリエーションがある
ABSは「カラーバリエーション」があります。
オーソドックスな白や黒、青や赤などのカラー色が販売されています。そのため、最終的に製造するものに近い色で試作品を作ることができるので、リアルな検証をすることができます。
しかしながら、カラーバリエーションで言うとPLAに軍配が上がります。またクリア(透明)はないので、その場合はPETGやPC(ポリカーボネート)が使われます。
③ 安価
ABSは、安価に購入することができます。
PLAやPETGと同じく、安価に流通しています。家庭向けであればAmazonや楽天などで買うことができます。商用向けであれば、販売店から購入することができます。
ABSフィラメントを使うメリット
① 実用性が高い
ABSは、実用性が求められる造形物に最適です。
耐衝撃性・靭性・強度・耐熱温度の高い樹脂です。そのため、治具やトルクがかかるギア、組みつけ部品、外装部などの試作プリントに使うと良いでしょう。
PLAでは、割れやすい、耐熱温度が足りないなどの問題点がある場合は、ABSフィラメントを使うことを検討します。
② 加工しやすい
ABSは、加工に向いています。
たとえば「やすり」で表面を研磨したり、ネジ穴を追加工することが可能です。
【関連記事】 ABS以外の造形物にもヤスリをかけてみたらどうなるのかを検証!
ABSフィラメントを使うデメリット
① 扱えない機械がある
ABSフィラメントを取り扱えない機械があります。
ABSフィラメントを扱うには、高い熱が必要になります。プリントするには250℃ほどのヒーター出力が必要ですし、それを定着させるには100℃ほどのテーブル温度が必要です。
家庭用3Dプリンターでも、取り扱いが可能な機種が販売されています。
② プリントがむずかしい
もしABSに対応した3Dプリンターだとしても、失敗する可能性はあります。
その理由は「収縮力が強い」ためです。高温で軟化されたABSは、常温にさらされると固まっていきます。そのときの縮む力によって「割れてしまったり」「テーブルから剥がれてしまったり」します。
「大きくて、複雑な形状」は失敗しやすいですが、調整力や経験値があれば成功する可能性があります。
【関連記事】 ABSを使って大きいモデルをプリントするコツ【Ender-3 S1】
↓の動画では、症状の改善方法をご案内していますので、ぜひ参考にしてみてください。
③ 耐候性が低い
ABSは、耐候性が低いです。
耐候性とは、自然の影響をどれくらい受けるかを示すものです。ABSは、太陽の光に長時間さらされると、変色したり劣化が早まってしまいます。
そのため、ABSは屋内で使用することをおすすめします。また耐候性の高い樹脂は、PC(ポリカーボネート)やASAがあります。
ASAフィラメントは、安価に購入することができるようになってきています。
ASAのプリントのコツなどもご紹介していますので、参考にしてください↓
【関連記事】:【ASAフィラメント】失敗しないパラメーター!
ABSを9つの視点で分析する
メーカーによる違いがありますので、それを踏まえて参考にして頂ければと思います。
1.全体的な扱いやすさ 〇
・成功するパターンを理解しておく
ABSは、どの形状でもプリントできるわけではありません。その「大きさ」や「樹脂のクセ」を理解することが、とても大切です。
・安価で、保管もしやすい
多くのフィラメントメーカーが取り扱っており、安価に購入することができます。また吸水率は0.3%ほどですので、適正に保管すれば問題ありません。
2.プラットフォームの定着性 △
先にもご説明しましたが、収縮力がとても強い樹脂のため、テーブルから剥がれやすいです。以下の「4つ」のポイントを抑えておきましょう。
① キャリブレーションを行う
ノズルとテーブルの「すき間」の調整を行いましょう。
正しく調整しないと剥がれる原因となってしまいます。
【関連記事】 テーブルから剥がれないようにする方法!
② 糊(のり)を使う
正しくキャリブレーションを行っても剥がれることがあります。糊を塗ることで剥がれにくくすることができます。
【関連記事】 【3Dプリンター】おすすめのスティックのりはどれ?
動画でおすすめの糊をご紹介しています↓
③ エンクロージャーを使う
エンクロージャと呼ばれる「庫内の温度を保つツール」を使うと、剥がれにくくなったり、クラックしにくくなります。もし外カバーがないタイプは、使うことをおすすめします。
④ 低反りフィラメントを使う
近年では、収縮力をおさえたフィラメントが販売されています。あまりうまくいかない場合は試してみるのも良いです。
3.他の樹脂との相性 △
相性が良いと、専用サポート材や2色造形をすることができますが、ABSは向いていません。
・HIPSというサポート材が使える
ABSは、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)というサポート材を使うことができます。これはリモネンで溶かすことができます。
ところがリモネンは匂いや刺激が強い物質です。これが造形物の中に入り込んでしまい、排出できなくなるという問題があります。そのため、あまり現実的ではありません。
もしHIPSやリモネンを使う場合は、以下の点に注意しましょう。
・ 換気が十分なところで使う。
・ ゴーグルを使う。
・ 手袋を使う。
・ 引火に注意する
・ 変形しない容器を使う。
4.加工のしやすさ ◎
・やすりを使う
3Dプリントした作品には、積層痕や造形線が残ります。それを目立たなくするために表面を研磨することがあります。
手軽に使える耐水ペーパーは、水に浸けながら研磨します。
空研ぎペーパーと比べて、以下のようなメリットがあります。
・ 摩擦熱がおきにくい。
・ 目詰まりしにくい。
・ 掃除の手間が少ない。
【関連記事】 ABS以外の造形物にもヤスリをかけてみたらどうなるのかを検証!!
・リューターを使う
リューターを使うと、電動で表面仕上げをすることができます。
また研磨以外にも、簡易的な穴あけドリルも付属しています。
【関連記事】 格安リューターを使って仕上げ処理した結果【Ginelson】
・穴あけ
プリントした作品に、穴をあけることがあります。その際は、電動ドライバーや卓上ボール盤を使います。
手軽にハンディで行う場合は「電動ドライバー」や「リューター」がおすすめです。
安定させて加工したい場合は、ボール盤が良いです。
5.プリント中の匂い △
外カバーがある3Dプリンターであれば、匂いが漏れにくいので気になる事はありませんが、むき出しのものは気になることがあります。
もし匂いが気になる場合は、以下の対応を検討しましょう。
・ 換気扇の近くに設置する。
・ エンクロージャーを使う。
・ 匂いの少ないフィラメントを使う。
eSUNから、匂いの少ないABSフィラメントを低価格で販売しています。
6.湿気に対する強さ 〇
吸水率は0.3%~0.7%なので、PLA(0.3%~0.5%)やPC(0.15%~0.17%)ほど低くはありません。ですが、防湿対策をしていれば特に問題にはなりません。
防湿するポイントは、パッケージ開封後に「低湿度の環境にセットすること」です。フィラメントドライヤーや防湿BOXに乾燥剤を入れるなどの方法がおすすめです。
もしフィラメントに湿気が帯びてしまうと、プリント中に「パチパチ」という音が鳴りはじめます。そうなると仕上がりに影響します。
【関連記事】 【解決】フィラメントを防湿・乾燥・保管する方法
7.価格 ◎
商用向けは、1kgあたり4,000円~7,000円しますが、家庭向けは2,000円台から購入することができます。これだけ安価だと、失敗しても気が楽ですね。
8.強度 ○
粘り気が強いため、あらゆる衝撃を吸収できる性質を持っています。プリントしたものを落下させると、PLAは割れやすいのに対し、ABSは割れにくかったという経験があります。
ちなみに「PC(ポリカーボネート」は、さらに耐衝撃性が高い樹脂になります。
【関連記事】 PC(ポリカーボネート)フィラメントの特徴とは?
9.耐熱温度 〇
耐熱温度とは、連続でかけつづけても軟化しない温度のことです。材料の中では、中~高の部類に入ります。
ちなみに「PC(ナイロン)」や「PC(ポリカーボネート」は、さらに高い樹脂になります。
ほかの樹脂との比較表
ABSは、「加工性」「耐衝撃性」「価格」に優れています。
項目 | ABS | PLA | PP | PC | PETG | TPU | PA | 木質 | |
1 | 全体的な造形のし易さ | 〇 | ◎ | △ | 〇 | ◎ | △ | △ | 〇 |
2 | テーブルの定着性 | △ | ◎ | △ | ◎ | ◎ | ◎ | △ | 〇 |
3 | 他の樹脂との相性 | △ | ◎ | △ | 〇 | × | 〇 | 〇 | × |
4 | 後加工のし易さ | ◎ | △ | △ | 〇 | 〇 | △ | △ | 〇 |
5 | 匂いの無さ | △ | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ | 〇 | △ |
6 | 湿気に対する強さ | 〇 | ◎ | 〇 | 〇 | △ | △ | × | △ |
7 | 価格 | ◎ | ◎ | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | △ | 〇 |
8 | 強度 | ○ | △ | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ | △ |
9 | 耐熱温度 | 〇 | △ | ◎ | ◎ | 〇 | 〇 | ◎ | – |
低反りABSフィラメントを試してみる
板状のモデルを立てて、インフィル充填率を100%にしたものをプリントします。※この条件だと反りの影響が大きくなります。
通常のABSフィラメントを使った結果です↓。両端が浮いていることが分かります。
次に低反りフィラメントを使ってプリントした結果です。反りが緩和されているように見えます。
ちょっと脱線しますが、条件を変えてみます。インフィル充填率を100%から10%に変更してプリントした結果です↓。収縮力が弱まったため、反りがさらに抑えられました。
結果として、完全ではないものの、反りを減らせた気がします。お悩みの方は、試してみるのも良いと思います。
おすすめ3Dプリンター
① Ender-3 V3 KE
家庭向けで、500mm/sの高速プリントをすることができます。エンクロージャーを併用することで、庫内温度を保てるので、ABS出力も可能です。
② Creality K1
外カバーに覆われているため、庫内の温度を保つことができます。超高速3Dプリントが可能で、ABS以外にもPC・ASA・カーボンなどの耐熱性の高いフィラメントも使うことができます。
ABSのプリントがうまくいかない場合
ABSのプリントがうまくいかないこともあると思います。その場合は、トラブル対応をまとめていますので、参考にして下さい。
本記事では、3Dプリンターのあらゆるトラブル対処方法をまとめました。 お悩みの症状は、目次からご確認して下さい↓ 私自身は、保守・サポートのお仕事をしておりますので、このような経験が参考になれ[…]