【樹脂】ABSフィラメントとは?低反りのおすすめ対処方法もご紹介

ABSフィラメントについて、こんな疑問はないでしょうか?

・ どんな特徴があるの?
・ メリット、デメリットを知りたい。

 

本記事では、ABSフィラメントの基礎から、プリントに失敗しないための情報などをまとめていますので、参考になれば幸いです。

 

ABSとは

ABSという樹脂を、以下の4点に分けてご説明致します。

 


① 何の略?

ABSとは「A(アクリルニトリル)B(ブタジエン)S(スチレン)」3つが合わさった樹脂です。

 

A(アクリルニトリル)

匂いの強い液体で、強度・耐熱性に優れています。

B(ブタジエン)

燃えやすい気体で、耐衝撃性に優れています。

S(スチレン)

発砲スチロールにも使われており、加工性・光沢性に優れています。

 

これらが合体すると、とても頑丈で、曲げにも強く見た目が良い、ABSという合成樹脂になります。

 


② 熱可塑性樹脂のひとつ

ABSは、熱可塑性樹脂(ねつかそせいじゅし)に分類されます。

 

熱可塑性樹脂とは、熱を加えると柔らかくなる樹脂のことです。たとえばチョコレートや飴玉と同じで、熱を加えると柔らかくなったり、溶けたりする性質があります。

 

このようにABSに限らずフィラメントを使うFDM3Dプリンターの材料は、熱可塑性樹脂となります。ちなみに熱で固まる樹脂を「熱硬化性樹脂」と言います。

 


③ 何に使われている?

多くの製品に使われています。

たとえば、電化製品全般(テレビ・洗濯機・エアコン・掃除機・リモコン・パソコン)や台所用品(ポット、ミキサー)、自動車部品(カーオーディオ、カーナビ、シートの骨格部分、外装部分)などがあります。

テレビ・冷蔵庫

 

このように身の回りに使われており、日常からは切っても切り離せない樹脂です。

 

ABSフィラメントの特徴

以下の3点に絞ってご説明します。

 


① しなやかさがある

ABSフィラメントはしなやかです。

 

たとえばPLAフィラメントを曲げてみると、パキッっと折れてしまいます。ところがABSはしなやかさがあるため、曲げることができます。これは粘り気が強く、衝撃を吸収する特性があるためです。

フィラメントを曲げる

 


② カラーバリエーションがある

ABSは「カラーバリエーション」があります。

ABSフィラメント_糸状の材料

 

オーソドックスな白や黒、青や赤などのカラー色が販売されています。そのため、最終的に製造するものに近い色で試作品を作ることができるので、リアルな検証をすることができます。

 

しかしながら、カラーバリエーションで言うとPLAに軍配が上がります。またクリア(透明)はないので、その場合はPETGやPC(ポリカーボネート)が使われます。

 


③ 安価

ABSは、安価に購入することができます。

 

PLAやPETGと同じく、安価に流通しています。家庭向けであればAmazonや楽天などで買うことができます。商用向けであれば、販売店から購入することができます。

 

ABSフィラメントを使うメリット

メリットを、2点ご紹介致します。

 


① 実用性が高い

ABSは、実用性が求められる造形物に最適です。

 

耐衝撃性・靭性・強度・耐熱温度の高い樹脂です。そのため、治具やトルクがかかるギア、組みつけ部品、外装部などの試作プリントに使うと良いでしょう。

 

PLAでは、割れやすい、耐熱温度が足りないなどの問題点がある場合は、ABSフィラメントを使うことを検討します。

 


② 加工しやすい

ABSは、加工に向いています。

 

たとえば「やすり」で表面を研磨したり、ネジ穴を追加工することが可能です。

 

【関連記事】  ABS以外の造形物にもヤスリをかけてみたらどうなるのかを検証!

 

ABSフィラメントを使うデメリット

デメリットを、3点ご紹介致します。

 


① 扱えない機械がある

ABSフィラメントを取り扱えない機械があります。

 

ABSフィラメントを扱うには、高い熱が必要になります。プリントするには250℃ほどのヒーター出力が必要ですし、それを定着させるには100℃ほどのテーブル温度が必要です。

 

家庭用3Dプリンターでも、取り扱いが可能な機種が販売されています。

 


② プリントがむずかしい

もしABSに対応した3Dプリンターだとしても、失敗する可能性はあります。

 

その理由は「収縮力が強い」ためです。高温で軟化されたABSは、常温にさらされると固まっていきます。そのときの縮む力によって「割れてしまったり」「テーブルから剥がれてしまったり」します。

Ender-3_ABS_大きい物をプリント_プラットフォームから剥がれる

 

「大きくて、複雑な形状」は失敗しやすいですが、調整力経験値があれば成功する可能性があります。

 

【関連記事】  ABSを使って大きいモデルをプリントするコツ【Ender-3 S1】

 

↓の動画では、症状の改善方法をご案内していますので、ぜひ参考にしてみてください。

 


③ 耐候性が低い

ABSは、耐候性が低いです。

 

耐候性とは、自然の影響をどれくらい受けるかを示すものです。ABSは、太陽の光に長時間さらされると、変色したり劣化が早まってしまいます。

 

そのため、ABSは屋内で使用することをおすすめします。また耐候性の高い樹脂は、PC(ポリカーボネート)やASAがあります。

 

ASAフィラメントは、安価に購入することができるようになってきています。

 

ASAのプリントのコツなどもご紹介していますので、参考にしてください↓

【関連記事】:【ASAフィラメント】失敗しないパラメーター! 

 

ABSを9つの視点で分析する

ここからは、ABSフィラメントを「9つの視点」で分析します。

 

メーカーによる違いがありますので、それを踏まえて参考にして頂ければと思います。

 

1.全体的な扱いやすさ 〇

以下のポイントを抑えておけば、扱いやすいフィラメントです。

 


・成功するパターンを理解しておく

ABSは、どの形状でもプリントできるわけではありません。その「大きさ」や「樹脂のクセ」を理解することが、とても大切です。

 


・安価で、保管もしやすい

多くのフィラメントメーカーが取り扱っており、安価に購入することができます。また吸水率は0.3%ほどですので、適正に保管すれば問題ありません。

 

2.プラットフォームの定着性 △

プラットフォームテーブルへの定着性は、あまり良くありません。

 

先にもご説明しましたが、収縮力がとても強い樹脂のため、テーブルから剥がれやすいです。以下の「4つ」のポイントを抑えておきましょう。

 


① キャリブレーションを行う

ノズルとテーブルの「すき間」の調整を行いましょう。

ノズルとテーブルのギャップ調整

 

正しく調整しないと剥がれる原因となってしまいます。

 

【関連記事】  テーブルから剥がれないようにする方法!

 


② 糊(のり)を使う

正しくキャリブレーションを行っても剥がれることがあります。糊を塗ることで剥がれにくくすることができます。

スティックのりを塗布する様子

 

【関連記事】 【3Dプリンター】おすすめのスティックのりはどれ?

 

動画でおすすめの糊をご紹介しています↓

 


③ エンクロージャーを使う

エンクロージャと呼ばれる「庫内の温度を保つツール」を使うと、剥がれにくくなったり、クラックしにくくなります。もし外カバーがないタイプは、使うことをおすすめします。

 

④ 低反りフィラメントを使う

近年では、収縮力をおさえたフィラメントが販売されています。あまりうまくいかない場合は試してみるのも良いです。

 

3.他の樹脂との相性 

ほかの樹脂との相性は、あまり良くありません。

 

相性が良いと、専用サポート材2色造形をすることができますが、ABSは向いていません。

 


・HIPSというサポート材が使える

ABSは、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)というサポート材を使うことができます。これはリモネンで溶かすことができます。

 

ところがリモネンは匂いや刺激が強い物質です。これが造形物の中に入り込んでしまい、排出できなくなるという問題があります。そのため、あまり現実的ではありません。

 

もしHIPSやリモネンを使う場合は、以下の点に注意しましょう。

・ 換気が十分なところで使う。
・ ゴーグルを使う。
・ 手袋を使う。
・ 引火に注意する
・ 変形しない容器を使う。

 

4.加工のしやすさ ◎

ABSは、加工性が高いです。

 


・やすりを使う

3Dプリントした作品には、積層痕や造形線が残ります。それを目立たなくするために表面を研磨することがあります。

やすり加工前と後

 

手軽に使える耐水ペーパーは、水に浸けながら研磨します。

ペーパーでやすりがけ

 

空研ぎペーパーと比べて、以下のようなメリットがあります。

・ 摩擦熱がおきにくい。
・ 目詰まりしにくい。
・ 掃除の手間が少ない。

 

【関連記事】  ABS以外の造形物にもヤスリをかけてみたらどうなるのかを検証!!

 


・リューターを使う

リューターを使うと、電動で表面仕上げをすることができます。

ミニリューター_Ginelson_研磨の様子_粉塵

 

また研磨以外にも、簡易的な穴あけドリルも付属しています。

ミニリューター_Ginelson_コンパクトケースの中身

 

【関連記事】   格安リューターを使って仕上げ処理した結果【Ginelson】

 


・穴あけ

プリントした作品に、穴をあけることがあります。その際は、電動ドライバーや卓上ボール盤を使います。

 

手軽にハンディで行う場合は「電動ドライバー」や「リューター」がおすすめです。

 

安定させて加工したい場合は、ボール盤が良いです。

 

5.プリント中の匂い 

プリント中の匂いは、少し気になります。

 


外カバーがある3Dプリンターであれば、匂いが漏れにくいので気になる事はありませんが、むき出しのものは気になることがあります。

raise3Dpro3 ドア開閉センサー

 

もし匂いが気になる場合は、以下の対応を検討しましょう。

・ 換気扇の近くに設置する。
・ エンクロージャーを使う。
・ 匂いの少ないフィラメントを使う。

 

eSUNから、匂いの少ないABSフィラメントを低価格で販売しています。

 

6.湿気に対する強さ 〇

湿気に強いとは言えませんが、正しい運用をしていれば問題ありません。

 


吸水率は0.3%~0.7%なので、PLA(0.3%~0.5%)やPC(0.15%~0.17%)ほど低くはありません。ですが、防湿対策をしていれば特に問題にはなりません。

 

防湿するポイントは、パッケージ開封後に「低湿度の環境にセットすること」です。フィラメントドライヤーや防湿BOXに乾燥剤を入れるなどの方法がおすすめです。

 

もしフィラメントに湿気が帯びてしまうと、プリント中に「パチパチ」という音が鳴りはじめます。そうなると仕上がりに影響します。

湿気を帯びたフィラメント

 

【関連記事】   【解決】フィラメントを防湿・乾燥・保管する方法

 

7.価格 ◎

安価で購入することができます。

 


商用向けは、1kgあたり4,000円~7,000円しますが、家庭向けは2,000円台から購入することができます。これだけ安価だと、失敗しても気が楽ですね。

 

8.強度 ○

特に「耐衝撃性」が高い樹脂です。

 


粘り気が強いため、あらゆる衝撃を吸収できる性質を持っています。プリントしたものを落下させると、PLAは割れやすいのに対し、ABSは割れにくかったという経験があります。

 

ちなみに「PC(ポリカーボネート」は、さらに耐衝撃性が高い樹脂になります。

 

【関連記事】   PC(ポリカーボネート)フィラメントの特徴とは?

 

9.耐熱温度 〇

耐熱温度は、およそ80℃~100℃です。

 


耐熱温度とは、連続でかけつづけても軟化しない温度のことです。材料の中では、中~高の部類に入ります。

 

ちなみに「PC(ナイロン)」や「PC(ポリカーボネート」は、さらに高い樹脂になります。

 

ほかの樹脂との比較表

ほかの樹脂と比較した一覧表を記載します。

 

ABSは、「加工性」「耐衝撃性」「価格」に優れています。

  項目 ABS PLA PP PC PETG TPU PA 木質
1 全体的な造形のし易さ
2 テーブルの定着性
3 他の樹脂との相性 × ×
4 後加工のし易さ
5 匂いの無さ
6 湿気に対する強さ ×
7 価格
8 強度
9 耐熱温度

 

低反りABSフィラメントを試してみる

低反りフィラメントを使って、どれくらいの効果があるかを試してみました。

 


板状のモデルを立てて、インフィル充填率を100%にしたものをプリントします。※この条件だと反りの影響が大きくなります。

 

通常のABSフィラメントを使った結果です↓。両端が浮いていることが分かります。

 

次に低反りフィラメントを使ってプリントした結果です。反りが緩和されているように見えます。

低反りABSフィラメントを使った結果

 

ちょっと脱線しますが、条件を変えてみます。インフィル充填率を100%から10%に変更してプリントした結果です↓。収縮力が弱まったため、反りがさらに抑えられました。

低反りフィラメントで10%インフィル

 

結果として、完全ではないものの、反りを減らせた気がします。お悩みの方は、試してみるのも良いと思います。

 

おすすめ3Dプリンター

ABSが使えるおすすめ3Dプリンターを「2つ」ご紹介します。

 


① Ender-3 V3 KE

家庭向けで、500mm/sの高速プリントをすることができます。エンクロージャーを併用することで、庫内温度を保てるので、ABS出力も可能です。

 


② Creality K1

外カバーに覆われているため、庫内の温度を保つことができます。超高速3Dプリントが可能で、ABS以外にもPC・ASA・カーボンなどの耐熱性の高いフィラメントも使うことができます。

 

ABSのプリントがうまくいかない場合

ABSのプリントがうまくいかないこともあると思います。その場合は、トラブル対応をまとめていますので、参考にして下さい。

 

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