PLAやABSと違って「柔らかさに種類」があります。
ここを理解しないままプリントすると、失敗しやすくなったり、仕上がりが悪くなってしまいます。
そこで本記事では「失敗しないフィラメントの選び方」「知っておくべきこと」をまとめています。
プリント成功のヒントになれば幸いです。
また、動画でもご覧になれます↓
ゴム系フィラメントは2種類ある
① TPU(熱可塑性ポリウレタン)
1つ目はTPU(熱可塑性ポリウレタン)です。
弾力性があり、摩耗に強く、丈夫な素材です。たとえばボール、スポーツウェア、水着、ケーブルの保護カバー、シューズ、医療品などに使われています。
この特性は、3Dプリンターとの相性が良いため、失敗しにくい材料と言えます。
② TPE(熱可塑性エラストマー)
2つ目はTPE(熱可塑性エラストマー)です。
TPUよりも柔らかさを求める場合に使われます。伸縮性があり、手触りがとても良いため工具のグリップ部やキーボードのキーキャップ、ハンドル部などに使われます。
TPUよりもコシが弱いため、3Dプリントの難易度は上がります。
ゴムフィラメントを扱う上での「3つ」の注意点
① ノズル詰まりが起きやすい
ゴムは、ノズル詰まりが起きやすいフィラメントです。
PLAやABSであれば、経路にちょっとしたゴミがあっても、フィラメントの「強いコシ」によって強引に搬送することができます。※もちろん全てではないですが。
ところがTPUはコシが弱いので、推進力が低いです。そのため経路にゴミなどがあると、詰まりやすくなります。
つまり柔らかいフィラメントほど、詰まりやすくなるということになります。
② 座屈が起きやすい
座屈とは、搬送している途中でフィラメントが屈折(湾曲)してしまうことです。
症状がおきる原因は、以下の「3つ」が考えられます。
<① ルート上やノズル内にゴミやコゲがある>
ルートの清掃やノズルの交換などの対処をしましょう。
<② プラットフォームとノズルが近すぎる>
Z軸のキャリブレーションや、スライサーソフトで高さ調整をしましょう。
<③ スライサーソフトで調整しきれていない>
速度を遅くしたり、リトラクト量を減らすなどの対処をしましょう。
③ 柔らかさによって、クオリティは変わる
柔らかいフィラメントほど、プリントする形状によってクオリティが下がります。
以下の写真のように、オーバーハングがある形状は、クオリティが低くなる傾向があります。※これはTPE(熱可塑性エラストマーの硬度60A)の例です。
これは樹脂の収縮が原因ではなく、柔らかさゆえに、その上に乗っかる部分が不安定になってしまうためです。
一方で、オーバーハングの無い形状であれば、問題なくプリントすることができます↓
比較・検証する
① BASF Ultrafuse 64D
今回の中では最も硬いTPUフィラメントです。
② Polymaker TPU95A
TPU95Aはバランスが良く、ゴムと言えばこれというフィラメントです。流通量は最も多いです。
③ BASF Ultrafuse TPU85A
TPU95Aよりもやや柔らかいTPUフィラメントです。

④ ホッティポリマー HPフィラメント 60A
今回の中では最も柔らかいTPEフィラメントです。
1.温度・速度の比較
まずは、温度や速度の比較表です↓ ※ Raise3Dの速度を参考値としております。
ノズル温度(℃) | テーブル温度(℃) | 造形速度(mm/s) | 備考 | |
Ultrafuse 64D | 230 | 30~40 | 35 | |
PolyFlex TPU95A | 225 | 20~40 | 35 | |
Ultrafuse 85A | 215 | 20~40 | 40 | |
HPフィラメント 60A | 235 | 0 | 20~30 | 養生テープ使用 |
全体的にプラットフォームの温度は低く、あまり違いはありません。速度はABSやPLAよりも遅く設定されています。
またHPフィラメント60Aは、プラットフォームに養生テープを張り、定着力を上げる必要があります。
2.価格の比較
価格は以下の通りです。※改定することがあるので、参考程度でお願いします。
・ BASF Ultrafuse 64D :7200円/750g
・ Polymaker TPU95A :7400円/750g
・ BASF Ultrafuse 85A :7200/750g
・ HPフィラメント 60A :15000円/500g
上記はいずれも商用プリンター向けのフィラメントです。家庭用向けも販売されていますので参考にしてください↓
3.柔らかさの比較
それぞれのフィラメントで試験棒を作って、比較します。これはぜひ動画を見て頂きたいです。
1.BASF Ultrafuse 64D
手で曲げることはできますが、やや力が必要です。
試験棒を振ってみると、まったくと言って良いほど揺れません↓
2.Polymaker TPU95A
TPU95Aは、TPU64Dよりは楽に曲げることができます。
こちらもTPU64Dよりは振れますが、振れ幅はほとんどありません。
3.BASF Ultrafuse TPU85A
TPU85Aは、簡単に曲げることができます。数値以上に柔らかいと感じました。
振ってみると「ふにゃふにゃ」という感じです。95Aよりは60Aの方に近いと思います。
4.ホッティポリマー HPフィラメント 60A
力をほとんど加えなくても曲がります。
振ってみると「ぷるぷる」という感じです。振れ幅はとても大きいです。
4.クオリティ(仕上がり)の比較
↓のモデルをプリントし、硬さによってクオリティがどれくらい違うのかを比較します。
1.BASF Ultrafuse 64D
もっともキツイ傾斜(80℃)では、樹脂垂れが起きていますね↓
2.Polymaker TPU95A
こちらも、64Dとあまり変わらないですね。80℃付近で垂れが起きています。
3.BASF Ultrafuse TPU85A
TPU85Aでは、より柔らかくなっているためか、60℃~70℃付近で垂れが起きていました。
4.ホッティポリマー HPフィラメント 60A
これは30℃くらいから影響がではじめていました。オーバーハングのある形状は難しいです。
まとめ:ゴムフィラメントの選び方
そのため「求めている柔らかさ」と「実際のクオリティ」をうまく天秤にかける必要があります。
特徴 | 該当商品/ 商品リンク(Amazon/SK本舗) |
|
① | とりあえず失敗を少なくしたい。 硬めでもいいから形を評価できれば良い。 |
BASF Ultrafuse 64D |
② | クオリティ、硬度はそこそこ。 ラインナップが多いので商品を選ぶことができる。 |
Polymaker TPU95A |
③ | クオリティはやや下がる。 かなり柔らかい。 |
BASF Ultrafuse 85A |
④ | プリントする形状をしっかり吟味する必要がある。 | HPフィラメント 60A |
⑤ | とりあえず安価に購入したい。 | SUNLU TPU フィラメント |